No58
2006.7.15
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あたか農園だより
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☆朝日新聞「私の視点」
 7月4日の朝日新聞「私の視点」に投稿した意見が掲載されました。
 農薬の残留基準が強化され、その説明と指導が行なわれていますが、農家に分かりにくく、どうも生産者のことを考えているようには思えないので投稿したら採用されました。
以下が掲載文です。

私の視点/安高 吉明(あたか・よしあき) 農業(露地野菜栽培)

◆農薬の規制強化 農家が知りたい具体的目安

 5月末から食品衛生法にポジティブリスト制度が導入され、今までは作物ごとに農薬の種類を特定した上で定めていた残留基準値を、原則、農薬の種類を問わず全作物に適用することになった。農薬の具体的なまき方をめぐって、農村ではいま、困惑が広がっている。
 散布の濃度や量、時期、回数を適正に守るだけなら、個々の農家の責任で出来る。だが今回は、近隣が別の作物にまいた農薬が飛散した場合や、農業用水からの付着でも、検出されれば出荷者は結果責任を問われて販売禁止となる可能性がある。残留基準の一律0・01ppm(1`当たり0・01_グラム)という、農家の感覚では測りようもない数値が独り歩きし、農家の不安をいたずらに増幅させているのだ。
              ◆   ◆
 今春、私の畑に接する住宅の垣根に、造園業者が殺虫剤をまいた。後でそのことを聞き、当時の状況から飛散は考えにくいと思ったものの、大事を取って垣根から幅5b、長さ40bにわたって収穫を待つばかりだったキャベツを廃棄した。  地元の病害虫防除所などの担当者は、昨年から行われている、農薬のまき方についての説明会でこう言う。
 「風のある日は散布しないように」「横にある別の作物にはかからないように」「飛散を受けた恐れのあるものは出荷しないように」「適正な農薬使用を」……。だが、そんな助言は、農家には何の役にも立たない。わざわざ言われなくても「風のある日に散布したい」とか「横の作物にも飛散させたい」と思う農家など無いからだ。それでも散布を迫られる緊急事態は起こりうるし、さらに言えば空気が動かない日は無い。
              ◆   ◆
 農家が知りたいのは具体的な資料だ。例えば、様々な散布例に即した検出数値の一覧表や、水稲農薬使用の多い時期に農業用水を利用した場合の数値など、許容量の0・01ppmに照らして、それぞれどの程度になるかの判断材料をぜひとも得たい。安全な農産物を出荷することは生産者の責務だが、「影」におびえて安全なものまで生産をあきらめたり廃棄したりすることは無駄だからだ。
 南極の氷からも農薬が検出される時代に、狭い日本で、外から影響をまったく受けない環境など考えられない。重要なのは抽象的な数字ではなく、農家が共通認識として許容量を把握できること。それを可能にする分かりやすいデータの提示や指導こそが急務だ。
 数値で生産者に結果責任を問いながら、あいまいな説明しか出来ない関係機関の指導は、生産現場の視点が明らかに欠落している。
 このままでは新制度が目指す「食」の安全が、本当に確保できるのかを危ぶむばかりである。
         ◇ 49年生まれ。福岡県在住。

 掲載後、方々から反響をいただきました。農業関係者だけでなく一般の方まで、どうかすると書いた本人以上に問題を深く捉えた受け止め方をしてくれた方もいたりして、発信することで教えられることも多いと再確認しました。今からでも、よかったら気軽に感想メールをお願いします。
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